前提として、僕はスポットでタクシー広告だけを制作するということはなく、クライアントさんとは、半年〜1年など中長期で契約をするようにしていて、その期間の中のマーケティング活動の一つとして、タクシー広告動画を制作することが多いです。
なので、全体を通してタクシー広告はよかったのか効果をみて判断しています。
タクシー広告を一回出稿したからといって革命的な結果が出るということではないので、指名検索が増えるなど、何か一つでも良い効果に繋がるのであれば、総合的によかったと振り返るようにしています。

僕が大事にしているのは、目的・ゴールの解像度を高くするということです。ゴールの解像度が高くないので、成功しているかどうかわからないという例をよく見かけます。「ecforce」の新CMがSNSでバズったのは嬉しいのですが、結果論だと思っています。明確に決めたKPIを達成するために、どういうことをやるのかを逆算していて、SNSでバズるということがゴールではない。
要するに、目的の解像度を高くして、その企業にとっての成功の定義を明確にしておくことが重要です。特にタクシー広告は、TVCMと違って、達成できることが色々あると思うんです。TVCMはシンプルな認知拡大施策になることが多いですが、タクシーは指名検索を増やすこともできるし、営業の商談率を上げることもできる。
色々効果が見れるからこそ、目的やゴールを決めることが重要になってくると考えています。
僕は「ビズリーチ」のCMで最初をつくってしまったので、少し心が痛みますね(笑)スタートアップ企業は、他社事例を参考にする風習があると思っていて。例えば、BtoBの会社がタクシー広告に出稿するとき、ビズリーチの動画で良い結果が出ていたら、じゃあ同じ構成・フォーマットでやってみよう、となってしまうんだと思います。タクシーだけじゃなくて、noteとか採用広報とかに関しても同様かなと。
僕が最初にクライアントに話すのは、タクシー車内で広告を配信すること自体、利用者の気持ちを考えると、ポジティブに捉える人だけではないということ。フォーマットがあるということは、効果が出ているということなので純粋にクリエイティブに対するリスペクトは持ちつつ、同じフォーマットで連続して動画が流れた時のタクシー利用者の心境を考えて、それは避けましょうと。移動時間に見て楽しんでもらえるようなクリエイティブを作るようにしています。
自分はもしかすると、フォーマット作り屋かもしれないと思っているんですが。ビズリーチフォーマットに関しては、ビズリーチさんは同じフォーマットで発信し続けると、統一してブランドイメージで訴求できるので良いのですが、そのフォーマットを他社さんが使用する連鎖が続いていることがあまり良くないんじゃないかなと。フォーマットを作った人間は、このフォーマットの肝がどこにあるのかを理解しているんですよね。理解している以上、ブレずにクリエイティブのアップデートや改善ができるので、他社と比較しても常にリードできると思っています。
タクシーに限らず、企画一般の話になってしまいますが、一言で言えることは重要ですよね。例えば、〇〇社のタクシー広告みた?という話になった際に、どのようなCMかと聞かれて、一言で説明できないと、なかなか効果は出ないんじゃないかと思います。
少し視点は違うのですが、納品後が重要です。どういうことかというと、納品後に新CMをどのように社員に発表するか、などですね。例えば会社のアイコンとなるような、インサイドセールスであのCMをしている会社ですと営業の方が言いたくなるCMを作るとして。そうしたら、発表会は全社員を呼んでやった方が良いと思いますし。タレントが出演しているんだったら、当然全社向けに加えて、ピンポイントで営業向けにタレントからコメントをもらうとか。
予算も変わらないので、納品後まで手を抜かずに徹底して拘ることは大事だと思います。「ecforce」に関しては、実施していましたね。社内のモチベーションも変わってくるので、非常に重要なポイントだと考えています。
同意見です。僕は“祭り“をつくろうとよく言っていて。すべての部署で盛り上げていくということが重要だと思います。過去に敢えて自社のオフィスでタレントさん含めて撮影をしたケースもありましたね。その時は、社員や会社全体のモチベーションに繋がったと聞いています。
すごくシンプルな決め事として、ワンメッセージ・ワンゴールに絶対しましょうとオリエン時に伝えています。シンプルなルールだけを守れていれば、かなりの確率でうまくいくと思います。
ワンメッセージ・ワンゴールというのも大変な作業だと思うのですが、そこのお手伝いはしますか?
はい、メッセージとゴールの議論から入ります。一緒につくった方が良いというのはあって、具体的に制作のことが分からない人がメッセージを書いてしまうと、絵に描いた餅のようになることがあります。
アウトプットできないようなものになりかねないので、ゴール・メッセージを決める段階から一緒につくっていくようにしています。大体最初は、認知・純粋想起を上げたい、加えてSNSでバズも作りたいとか。実際に両方達成するのは難しいし、そもそも相性が良くなかったりもしますよね。
そういう時は、まずは目的から一緒に話し合います。一度ストップして本当に広告が必要なのか、施策全体を見直す提案をすることもあります。
北尾さんはどうですか?
基本的には伴走型で入っているので、オリエンはないというのが答えになってしまいます。今その会社にとって何が必要かというのを自分も把握しているので。言うべきメッセージをどういうものにしていくかに関しては、日々の打ち合わせの中で一緒につくっていますね。
一応目安でお伝えしているのは、半年です。3ヶ月でできなくもないのですが、最初のブリーフィングに時間がかけられないんですよね。ブリーフィングで決めたことを変えない方が良くて。短い期間で実施するとブリーフィングが中途半端になってしまった結果、途中でメッセージやゴールを変えたくなってしまう。なので、4ヶ月から半年くらいが良いと思っています。
費用に関しては、会社を代表する、会社を体現した映像を制作するという意味合いで、1500万くらい予算を確保した方が良いと伝えています。
僕は企画が決定してから撮影、納品まで大体1ヶ月半くらいとお伝えしています。打ち合わせの頻度にもよったりするんですけど。
費用に関しては、梅田さんと同じくらいです。一旦予算を伝えてもらってその中でできることをするようにしています。当然最低のラインはありますし、例えば300万で撮影するとなると、イラストを使ったり、どうしても制限は出てきてしまう。CMは、社員のモチベーションや会社全体のイメージを大きく左右するものだと思うので、低クオリティなものは避けた方が良いと思っていますね。
割とお二人は動画を制作するだけでなく、マーケティング視点も持ち合わせてアドバイスをすることが多いと思うのですが、宣伝予算に関して目安にしている指標はありますか。

基準でお伝えしているのは、マスだと媒体に対して制作が25%くらいであれば許容範囲ではないかとお伝えしています。ケースバイケースですが。
僕も同じ考えですね。タレントの話になりますが、タレントを起用すると、基本的に制作費の倍ぐらいのタレントが大体出てきて、そうするとCPAが単純に3倍になってしまう。そうなると少し厳しいですよね。
クライアントのビジネスの成長のためにタレントを起用するのかという視点で、費用に関してはどのように考えていますか?
コンテンツに関しては、割とPL的で、タレントはBS的なんですよね。つまり、翌年以降も寄与する、信用担保というか。例えば有名な女優さんが出ていると、ちゃんとした会社に見えるじゃないですか。社会の中で信頼という資産を積み上げていくという視点で考えると、採算が取れるかなと。
ちなみに何年起用した方が良いなどありますか?
有名な女優・俳優さんクラスだと、少なくとも3年は起用した方が良いと伝えています。使えるんだったら永久に使った方が良いくらいの、3年〜7年くらいの期間で割るといいかと。
北尾さんはどうですか?
タクシーだけではなくて、HPやイベント、WEBとか色々な施策で年間契約しているケースもあって、数字で出すのが割と難しいのですが。一連の施策の中で、割っていけばざっくりこれくらいだよねと話すようにしていますね。
TVCMと違って、タクシーは特定の人が何度も接触しますよね。良く乗る人は週に10回〜20回もみたりするので、そこは意識しているようにしています。例えば、端々に色々な仕掛けを作るようにして、何度か試聴するうちに理解できる、気づけるみたいな。そういった見る人を飽きさせない工夫は心掛けています。
音は特に気を配るようにしています。まだ答えは見つけられていないんですけど。最終的に確認するのは編集室だと思うのですが、編集室の環境と実際のタクシー車両だと音の聞こえ方は全然違ったりするので。あとは、字幕のサイズ問題です。小さく字幕を作ると、タクシーだと全然見えなかったりするので、実際の環境で確認した方が良いと思います。
字幕問題で言うと、漢字か平仮名なのか細かくこだわるようにしていますね。実際に喋っているセリフに、字幕で「てにをは」を加えたりすることもあります。
自分が大事にしていることは、目的はとにかく拘って欲しいと伝えています。その代わり、手段は全て任せて欲しいと。うまくいかなくなる、結果的に目的から遠ざかるパターンは、手段に介入がある時によく起こります。手段というのは、演出からコピーまで全てです。
僕も同意見です。僕の場合は、自分がコピーを書いてオリエンをしてそのままクライアントさんからOKが出ることが多いので、自然と手段に関して全て任せていただいていることが多くなってますね。ただクライアントとの関係性があってのことだと思いますが。
関係性という意味合いでは、僕は必ず飲みにいくようにしていますよ。この人なら任せられるといったクリエイティブディレクターと出会って、信頼関係を築くことも重要だと思います。